2022.1.14 たんぽぽ舎 金曜ビラより  

東京電力の汚染水処理に関連して  (3回の連載)

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┗■2.東京電力の汚染水処理に関連して
 | 「放射線影響評価報告書」に対する「意見募集」に
 | 送った文書を紹介 (上)(3回の連載)
 | 福島第一原発事故による汚染水対策は破綻状態にある
 └──── 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

項目紹介
1.汚染水処理対策の失敗を認め組み立て直すべき
  汚染水対策は破綻状態にある
2.タンク貯蔵は限界と言うが敷地はある
3.福島第一原発事故の放射能の影響を総合的に検証すべき
4.原子力推進のIAEAの見解や評価は認められない
  (上)に掲載
5.国の委員会の報告書はあくまでも参考意見に過ぎない
6.タンク貯蔵のリスクなど「為にする論」である
7.公聴会や意見募集では大半が放出反対だったことを無視している
8.権限のない閣議決定に従う必要などはない
9.汚染水を「安全な水」?とんでもないデマである
  (中)に掲載
10.原子力産業の専門家を集めて安全宣言をするなど
  福島の教訓はどこに?
11.濃度1500Bq/L規制は「安心感」のためなどではない
12.失効した管理目標値まで放出する計画の矛盾
13.生物濃縮はないとする評価の前提は間違っている
  (下)に掲載

はじめに
 東京電力は、11月17日から12月17日にかけて『「ALPS処理水の
海洋放出に係る放射線影響評価報告書(設計段階)」に対する意見
募集』を実施しました。

 『政府の「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所
における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」(2021年
4月13日、廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議)にて示された
方針を踏まえ、「ALPS処理水の海洋放出に係る放射線影響評価
報告書(設計段階)」のさらなる充実のため、ご意見を募集し、今後、
本報告書の見直しにあたっての参考とさせていただきます。』として、
意見募集を行ったのですが、「報告書」の前提となっているのは
汚染水を海水で薄めて海洋に放出するというものですから、その是否を
問うものならば意義はあると思いますが、環境影響評価の部分にだけ
意見を求める形式になっていて、これは納得できません。

 また、汚染水を「ALPS処理水」というのならばまだしも、文中
では「安全な水」などと表記しており、あらかじめ大きくバイアスを
かけています。
 「安全な水」を海に流しても安全であることには間違いないでしょう。
 このような立場で書かれた文書が、評価報告書という名で公開されて
いることに驚きを禁じ得ません。
 東電の姿勢は、いまさらながらに恐ろしいと感じました。

 すでに締め切りは過ぎ、現在は意見の取りまとめをしているの
でしょうが、汚染水の海洋投棄に反対する意見を送ったので、
メルマガで紹介します。

「ALPS処理水の海洋放出に係る放射線影響評価報告書
(設計段階)」に対する意見

1.汚染水処理対策の失敗を認め組み立て直すべき
  汚染水対策は破綻状態にある

 1P「はじめに」
 『当社は、重層的な対策1により、現在では汚染水が建屋外に漏えい
しないよう管理するだけでなく、その発生量自体を、日量約540立方m(
2014年5月実績)より約140立方m(2020年実績)まで低減し、さらに2025
年には同100立方m以下に抑制することを目標としている。』

◎ 残念ながら、汚染水対策は破綻状態にある。
 「重層的な対策」などは機能しておらず、実質的にはサブドレン
井戸をくみ上げて毎日海洋放出することで建屋侵入量を減らしているに
過ぎない。
 つまり「サブドレン一点の効果」であり、残りの対策はサブドレン
までの地下水を抑制しているに過ぎない。サブドレンが機能していた
時代、つまり2011年3月11日以前は、建屋最下部以下まで地下水位を
下げていたのだから、今もそれは可能である。
 凍土壁や地下水バイパスがなくても地下水量はコントロールできる
はずである。

◎ 本来は2020年度(2021年3月31日)には汚染水発生量は日量20トン
未満に低減させる計画であったが、これが失敗したため2017年に計画を
改め、汚染水の発生を日量140トン未満としているのである。
 これでは永遠に汚染水の発生は止まらないため、仮に海洋放出を
始めたとしても、40年後とされる廃炉完了時点にデコミッショニング
できていなければ汚染水は発生し続けていることになる。

◎ 汚染水対策は2012年段階の計画通りならば、増加量は最大80トン
までで止まり、今は貯蔵していれば良い段階であった。
 このことを総括し、何が失敗だったのかを明確化しなければ
ならない。最初にすべきは何が失敗だったかの検証である。
 2025年段階については、日量100トンではなく日量ゼロトンを
目指すべきである。

2.タンク貯蔵は限界と言うが敷地はある

 2P「はじめに」
 『2021年6月時点でALPS処理水等とストロンチウム処理水を貯蔵
するタンクは1,047基あり、設置済みの容量約137万立方mに対し、
保管量は約126.5万立方mとなっている。汚染水発生抑制対策の効果や
今後の汚染水発生量の予測について慎重に見極めていく必要はあるもの
の、これまでの汚染水発生量の実績を踏まえれば、2023年春頃には
計画した容量に達する見込みである。』

◎ なぜ、137万トンまでしか貯蔵しない計画を押しつけられなければ
ならないのか。この数値が元になって「2023年」までに海洋放出を開始
しなければならないことにされている。
 しかしそんなことを押しつけられるいわれはない。
 また、東電の計画であっても増設を余儀なくされるケースはいくら
でもあり得る。
 例えば2019年10月のハギビス台風では多くの汚染水が発生している。
 このような災害に見舞われただけでも大量の雨水が流れ込んでしまう。
 2023年に拘らず、137万トンを超える量を貯蔵する仕組みは
必要である。

3.福島第一原発事故の放射能の影響を総合的に検証すべき

 2P「はじめに」
 『国が2019年12月の廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議で改訂した「
東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に
向けた中長期ロードマップ」に示したとおり、福島第一原子力発電所に
おける廃炉作業は、すでに顕在化した放射性物質によるリスクから、
人と環境を守るための継続的なリスク低減活動である。今後、数十年に
及ぶ福島第一原子力発電所の廃炉に向けた長期の工程の中には、燃料
デブリの取り出しや、使用済燃料の一時保管場所の確保といった、より
大きな放射線リスクを抱える諸課題への対応が必要であり、これらの
諸課題に的確に対応していくため、中長期的観点から総合的なリスクを
着実に低減させることが不可欠である。』

◎ 事故発生以来10年以上経つ現時点においてさえ、放出された放射性
物質の広範な影響評価は一切されていない。
 大規模な汚染による人や環境への影響についてまず評価するべき
である。
 それ以後の影響は、累積された放射性物質の影響として生じるの
であるから、初期値が明らかにされていないところで、その後の評価を
しても有意な影響を見いだすことは出来ない。
 つまり、はじめから影響はないとの前提に立っているのではないかと
考えられる対応をしているので、極めて不誠実である。

4.原子力推進のIAEAの見解や評価は認められない

 3P「はじめに」
 『国は2013年から2021年にかけて、5回にわたりIAEAの廃炉
ミッションを受け入れ、その見解を検討に反映してきた。IAEAの
廃炉ミッションは、ALPS処理水の処分計画の重要性を
指摘してきた。IAEAは、2015年の報告書において、タンクによる
保管は一時的な措置に過ぎないと評価した上で、より持続可能な解決が
必要であると指摘した。その後、2019年の報告書においては、更なる
必要な処理を実施した上で、ALPS処理水が速やかに処分されなけれ
ばならないとの見解を示した。』

◎ IAEAにとっては汚染水の海洋放出は既定路線であり、当初から
タンク貯蔵を排除して処分計画という名の海洋放出路線を前提として
ミッションを行っていることが明白である。
 「IAEAもそういっているから」との、バイアスのかかった立場を
取り入れていたのでは、国内外で、原子力産業による利益を享受して
いない人々や、特に被災者にとって何ら参考になる見解にはならない。
 最初からボタンの掛け違いが起きる構図である。
 IAEAは独立した中立機関などではなく、単に原子力産業の利益の
代弁と国家間の利害調整をしているに過ぎない。私たち市民にとって
何の評価対象にもならないことを認識していただきたい。(中)に続く


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┗■2.公聴会では明確に反対する意見がほとんどだったことを明記すべき
 | 東京電力の汚染水処理に関連して
 | 「放射線影響評価報告書」に対する「意見募集」に
 |  送った文書を紹介 (中)(3回の連載)
 └──── 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

5.国の委員会の報告書はあくまでも参考意見に過ぎない

 3P「はじめに」
 『国の多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会は、2020年
2月に報告書をとりまとめ、5つの処分方法案については、モニタリング
の実現可能性をも含む多角的な検討を行った上で、海洋放出および水蒸気
放出が現実的な選択肢であり、その中でも、海洋放出がより確実に実施可
能であるとの結論を示した。』

◎ 国の委員会の方針は、あくまでも参考意見に過ぎない。事故の収束作
業の責任は東電にある。加害者が同じく事故の責任を有する委員会の方法
案を取り入れて新たな加害活動をするなど、ありえないことである。
 まず、被害者の意見を聞くべきであり、それは第一に福島県の被災者
及び漁業、農業の生産の場を奪われた人々である。
 また、小委員会は公聴会等の意見を一切無視しており、最初から結論あ
りきなのは誰が見ても自明なことである。このような行為を続けていれば
何時までも東電は信頼を得ることは出来ない。

6.タンク貯蔵のリスクなど「為にする論」である

 3p「はじめに」
 『同委員会は、タンクによる長期保管についてタンク増設の余地が限定
されていることや、長期保管に伴う老朽化や災害等による漏洩のリスクの
高まりも指摘した。』

◎ これは明確にウソである。そうでなければミスリードである。
 敷地の状況を把握しているのは東電だけであり、委員会に対して所与の
条件として「敷地に余裕はない」と信じこませてしまえば、「与えられた
条件では海洋放出しか選択肢はありません」となるに決まっている。
 それに加えて「タンクは危険」とまで言うのだから、結論ありきである。
 しかし「タンクは危険」も異常な主張だ。タンクの危険性を主張するの
は世界中でも事故を起こした東電だけであり、一般産業においてタンクが
「危険」などと主張する事業者はいない。

 同じ東電であっても例えば、東京湾岸に林立する東電(またはJERA)
の火力発電所が所有するタンクは「危険」なのか?。もちろん、「危険
です」などと答えるわけがない。
 安全性の高いタンクを開発し、地下式又は半地下式で建設することで
地震や津波対策を行ってきたのではないか。

◎ 福島第一原発であれば大型の(35万キロリットル級)タンクを敷地
北側内陸部に地下式で8基程度建設し、今あるタンクの水を全て移せば
遥かに安全である。
 タンクが漏えいしたら、等と、意味のない反論をしているが、漏洩対策
をしたタンクの存在も知らないのかと、呆れるばかりである。

 第一、海洋放出が始まったら数年でタンクがなくなるのであればまだ
しも、最終的には放出終了時点までタンクは存在し続ける。半減するの
でさえ30年も経ってからと推測される。
 いったいどこが「リスク対策」になっているのか。
 地上タンクが危険というのならば、今すぐ全タンクを地下式に移行する
作業を開始すべきである。
 そのような対応さえせずに、長期保管タンクを否定する主要な点に
「危険性」を挙げるのは、天に唾するごときものである。
 これら委員会の発言を借りて東電の都合を主張しているに過ぎない。
削除すべきであろう。

7.公聴会や意見募集では大半が放出反対だったことを無視している

 3P「はじめに」
 『説明・公聴会を開催するとともに、書面を含め、広く意見を募集した。
その結果、提出された意見の中には、ALPS処理水の海洋放出が周辺環
境に与える影響などに対する懸念も示された。』

 これも都合のよいつまみ食いである。
 公聴会において出された意見のほとんどは環境への影響などの問題点を
指摘しての、反対意見だった。
 「懸念」どころか、明確に反対する意見であったことを明記しなければ
ウソである。

8.権限のない閣議決定に従う必要などはない
 3P「はじめに」
 『国は、これらの検討や意見を踏まえて、今般、ALPS処理水の取扱
に関して、「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所に
おける多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針」(2021年4月13日、
廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議)にて、安全性を確保した上で
海洋放出するとの基本的方針を示した。当社は、この国の方針を踏まえ、
同年4月16日に、「多核種処理設備等処理水の処分に関する政府の基本
方針を踏まえた当社の対応について」を公表』

◎ 権限のないものの「閣議決定」など決定の名に値しない。
 この会議体「関係閣僚会議」はあくまでも情報交換を目的としたもので
しかない。何らかの政府決定を行える会議体ではない。ましてや法的拘束
力を持つ権限も有していない。
 仮に法的拘束力を持つ決定をするというのであれば、法律を定め、国会
で審議し、議決しなければならない。そうであればこその民主的手続きで
ある。勝手に決めて国民に結論を押しつけるなどあってはならない。
 しかし東電は、そのような非民主的決定でさえ根拠として私たちや被災
者にも押しつけようとしている。
 断固反対すべき理由の1つである。
 まったく東電体質(自ら責任は取らず国などの権威の陰に隠れる)その
ものだ。
 「多核種処理設備等処理水の処分に関する政府の基本方針を踏まえた当
社の対応について」の撤回を求める。

9.汚染水を「安全な水」?とんでもないデマである

 4P「はじめに」
 『ALPS処理水の海洋放出にあたっては、法令に基づく規制基準等の
遵守はもとより、関連する国際法や国際慣行に基づくとともに、更なる取
り組みにより放出する水が安全な水であることを確実にして、公衆や周辺
環境、農林水産品の安全を確保する。』

◎ この考え方は本質的に誤りである。
 福島第一原発事故により環境中に放出された放射性物質の影響は、既に
広範囲にわたり生じており、とりわけ野生動植物への蓄積による影響は多
くの科学論文により示されている。
 この状況下に追加放出されるのがトリチウムを始めとした放射性物質で
ある。
 そのため、既に所与のものとして生じている影響に加わるので、汚染水
の放出に限った影響を切り出すことは極めて困難であり、事実上不可能で
ある。
 それに対して既存の知見の不足する水処理をおこなった上での排出が、
真に環境に与える影響を検出することが如何にして出来るのか、科学的に
説明すべきである。

◎ 特に、東電が前提としているのが「安全な水である」ことを前提とし
ていて、これは「法令に基づく規制基準等の遵守」等で確保できるとして
いる点に大きな問題がある。
 最初から安全な水を何億トン放出しようとも安全であるのに変わりはな
く、ことさら分析・評価するまでもない。科学的には普通そう考えられる。
 そのような前提に立ちつつ、いかなる「安全の確保」なのか全く理解で
きない。
 悪く言えば馬鹿にしているのか、と思う。安全確保の前提条件が安全な
水などと、いったいどういう発想で記述できるのか。この部分は全部撤回
し、書き直すべきである。

◎ ALPS処理をおこなえば安全な水になる、などと、ウソで誤魔化す
のは止めるべきだ。
 しかも見学者に対してALPS処理水を瓶に入れ、外からガンマ線測定
器をかざして「針が動かないでしょう」などと、素人だましをしている東
電である。
(ALPS処理水に含まれるトリチウムを除く放射性物質の濃度が告示濃
度以下に下がっていてトリチウムのみ数万ベクレル/リットルの濃度であ
れば、トリチウムはベータ線しか出さず、さらにベータ線は瓶で遮蔽され
ているので外部から測定など出来ず、更に測定している計器がガンマ線を
測定できないベータ線測定器だったので針が動くわけがない。動いていた
ら別の事件、例えば別の放射線源が側に落ちていた、などになっていたで
あろう)。(下)に続く

2021.12.17 たんぽぽ舎 金曜ビラより  

2021.12.3 たんぽぽ舎 金曜ビラより  

2021.11.5 たんぽぽ舎 金曜ビラより  

2021.10.15 たんぽぽ舎 金曜ビラより  

2021.10.1     たんぽぽ舎 金曜ビラより  

着情報 2021.9.3

着情報 2021.8.6